レインと誰かの学園祭

vol.2「舞台に吹き荒れる愛と欲望の嵐!!

ラストダンスは誰の手に!?」

 

 

おーい、そこのライトもう少し右だ!」

「誰か魔法使いの杖知らない〜!?」

「え〜ん、セリフが覚えられないよ〜!!!」

舞台裏は1秒ごとに騒がしくなっていく。

独特の緊張感と高揚が、みんなの中に共通で生まれていく。

 

あと数十分で、オレたちのクラスの劇『シンデレラ』が始まるのだ。

大道具や小道具、衣装などの係の生徒たちが右に左に忙しく動いている。

たかが学園祭のクラス発表の劇だと思いきや、衣装や大道具など、かなり本格的だ。

さすが宇宙中のプリンセス、プリンスが集まるロイヤルワンダー学園。

王子様役のオレは、キビキビ動き回るそれらの係たちに手を出すことも出来ず、壁際に突っ立ってただ眺めていた。

「あ〜、シェイド君!こんなとこにいた!」

突然、名前を呼ばれる。

見ると、同じクラスの女子2人(なんていう名前だったろう・・・)が、腕に布の袋のようなものを抱えてこちらに駆け寄ってきていた。

「ほら、衣装に着替えてもらうから早くこっちに来て!!」

ぐいっと袖を引っ張られるままに行くと、カーテンで仕切られて小さな個室のようになった空間に通された。

カーテンには「控室」と書かれた紙がテープでとめてあった。

渡された衣装に言われるがままに袖を通す。

 

真っ白なスタンドカラーの王子様の衣装。

襟と肩、それから袖口などのポイントには黒と銀の糸で刺繍がされ、プラチナ(のように見える)留め金が飾られていた。

最後に同じく真っ白のマントを纏うと

「わぁっ!!」

衣装係の2人が小さく声をあげた。

「シェイド君、すっごく素敵よ!」

「うんうん、本当に童話の中の王子様だわ」

口々に、そう言って互いに満足げに頷きあっている。

オレは、それには答えず、心の中で「何か居心地が悪いな」と呟いた。

オレも一応王子様だから、こういう格好は慣れてはいるんだが、真っ白というのが落ち着かなかった。

普段のオレはたいてい黒や紺といった暗めの色を着ている。

白はなんだか自分には、そぐわない様な気がして。

「ねぇ、入ってもい〜い?」

外から柔らかな声が聞いてきた。

衣装係の2人が「どうぞどうぞ」と答えるとひょこっとレインが顔を覗かせた。

「わぁっ、すごい!真っ白な王子様だ〜!」

そう言いながら入ってきたレインは、シンデレラ前半のボロボロの衣装を纏っていた。

それなのに、十分キレイだった。

思わず、見惚れる。

「シェイド、白も似合うのね」

ボーッとしていたので、反応が遅れる。

「ぇ、あ、そうか?」

そうなのか?昔、白い衣装を身につけて鏡に映ったオレはかなり違和感があったんだが。

でも、もしも本当に白が似合うようになったのなら、それはレイン達のおかげだと思う。

目の前で、にっこりと笑うレイン。

・・・きっとオレ自身がこの笑顔に浄化されているんだ。

 

「ただ今より、クラス発表『シンデレラ』の舞台を始めます」

アナウンスと共に、講堂の照明が徐々に暗くなっていく。

ざわついていた観客席が、始まりの音楽のボリュームが大きくなるのに反比例して静かになる。

幕が開く。

屋敷の掃除をさせられるシンデレラと、それを叱咤する意地悪な母と2人の姉の場面からだ。

母親役はキャメロットの特別出演、姉役はハマり役のアルテッサと、ファインだ。

ファインのこの配役には首をかしげるやつも多かったが、オレは納得だった。

オレとレインが関わろうとすると、何が何でも止めようとするのが、このファインだ。

オレにとってはアルテッサ以上にハマり役、という気がしていた。

 

以前、学園で芝居をやったのが良い経験になったのか、レインの演技はかなり上手くなっていた。

姉と母親たちが、お城の舞踏会に行って、寂しく1人の部屋にいるシンデレラは結構堂にいっていた。

「お城の舞踏会、きっととても素敵なんでしょうね。

あぁ、私も行きたい・・・」

ここで、魔法使いの登場だ。確か、ソフィーの担当だったな・・・。

「泣く事はないよ、シンデレラ」

そこで現れた魔法使いを見て、オレは開いた口が塞がらなかった。

何で・・・・、ここでトーマが出てくるんだ!?

「ムリヤリ代わってくれって言っただけあって、トーマさん上手ね〜」

後ろから、ソフィーの声がした。

「ソフィー、これはどういうことだ・・・」

オレは恐る恐る、ソフィーに聞く。

「トーマさんが、どうしても代わってくれって言うから、アルテッサの隠し撮り写真5枚と魔法使い役を交換したの〜vv」

おい。何してんだ、お前ら。

 

それにしても、何でトーマはそこまでして、魔法使い役なんて・・・。

と思いながら視線を舞台に移す。

レインは突然現れたトーマにとまどいながらも、芝居を続けていた。

「あ、貴方は魔法使いの・・・、お兄さん。

どうか、私をお城の舞踏会に連れていって下さい」

「いいともv お安い御用さ☆」

トーマが杖を振ると、杖の先から仕込んであった銀の紙ふぶきが舞う。

それと同時に、白い薄布を持った数人の係りがレインの周りを覆うように回る。

そして、その白い布が係りの人間とともにレインの周りから離れた時には、レインは美しいドレスに身を包んでいた。

学園祭の出し物にしては、見事だ。

「わぁっ、素敵なドレス〜v」

目を輝かせるシンデレラのレイン。

「良かった、喜んでもらえて☆

それじゃあ、そのご褒美として、その舞踏会、僕にエスコートさせてくれないかな?」

・・・・・は?

会場の人々の頭上に?マークが浮かんだ。

「エスコートがダメなら、今この場でキス、でも良いんだけどな〜☆」

――この野郎、これが狙いか。

シンデレラをナンパする魔法使いなんて聞いたことないぞ!!