レインと誰かの学園祭 

vol.1「プリンセス・レイン包囲網」

 



ロイヤルワンダー学園の今日は、いつにも増して賑わっている。

生徒たちの手作りの花飾りや、色紙のリングなどが、窓や壁を彩る。

いつもの教室がいつもとは違うようで、不思議に心が浮き立つ。

学園祭。

年に1回、父兄も呼んでのお祭りだ。

クラスごとに芝居や展示、喫茶店や、お化け屋敷など趣向をこらして来場者や他クラスの生徒たちを楽しませている。

もちろん、こんな日に意中の相手と一緒に校内を回れたら言うことなしだろう。

 

廊下際で明るい笑い声とともに青い髪が揺れている。

レイン。オレの片思いの相手だ。

面と向かって、一緒に回ってほしいとは言いかねたまま、今日を迎えたオレは、複雑な気持ちを抱えたまま、窓際の位置から廊下際にいるレインを見つめた。

――だが、オレの想い人には厳重なバリケードが張られていた。

「シェイド、何か用?」

バリケード、レインの妹のファインがオレにたずねた。

怖いくらいの笑顔だ。

「・・・いや、何でもない」

「そっv」

ニコッと笑うと、そのままレインに向き直る。

・・・ファイン、その位置に立たれると、レインが見えない。

 

レインとファインは双子で、とても仲がいい。

それはいいんだが、どうもファインはオレを敵視している気がしてしょうがない。

今みたいに、先制攻撃のようにオレに話しかけて、オレとレインが会話できないようにしたり、オレの視界の邪魔になるように、わざとレインの前に立ったり・・・。

レインをとられるとでも思っているのか?

まぁ、さらって行ってしまいたい欲望は確かにあるが・・・。

 

それにしても、悔しい。

ファインはいつもレインと一緒にいるんだ。

今日くらいは、レインの隣を譲ってくれても良さそうなものだ。

しかも、ファインの傍らには、ブライトまでいる。

ブライトは出会ったばかりの人が見ても分かるくらいに、ファインに惚れている。

今日だって、ファインの隣で自然に口元がニヤついてきているのがオレからもわかる。

もう、ブライトと一緒にまわればいいじゃないか、ファイン。

そうすれば、みんな幸せになれるだろうに。

そう心の中で交渉をしかけてみるが、当然の如くファインの笑みは揺るがない。

くそっ、相変わらずのバリケードの堅さ。

 

オレにとっての不幸は、レインを囲む包囲網はファインだけじゃないということだ。

廊下や、教室の端の方から、複数の視線がレインを捕らえている。

あいつらも「レインと一緒に学園祭をまわりたい」という野望を抱えているのだろう。

廊下からの視線は、ファンゴ。

無口でぶっきらぼうで愛想が無いという触れ込みのわりには、レインを意識しているようで、オレは何度かヤツがレインに対して顔を赤らめているのを目撃している。

――要注意だ。

教室の端からの視線は、トーマ。

故郷の国に帰ったくせに、今日の学園祭にはひょっこり顔を出している。

レインをキャスターに指名したりと、怪しい動きをしていたヤツだ。

――こいつも、油断は出来ない。

ほかにも、気になる視線はあったが、差し当たってオレの障害になりそうなのは、この2人ぐらいだろう。

 

状況を一通り判断した後、オレはため息をついた。

結局、オレのおかれた状況は変わっていないからだ。

だが、オレにはあせりは無かった。

あいつらが、どう頑張ったところで、あのバリケードは破れそうに無かったし、

オレには本日のメインイベントが待っている。

 

クラスごとの催しの中で、劇をやるクラスはわずかで、オレたちのクラスはそのわずかなクラスの1つだった。

出し物は『シンデレラ』。

オレはさりげなく講じた様々な手段によって、王子様の役を得ていた。

もちろん、シンデレラ姫はレインだ。

オレたちは手を取り合い、舞台の上でダンスをする。

あいつらは、舞台の袖で歯噛みしていればいい。

オレは胸のうちで、微笑んだ。

 

まさか、その舞台があんな事になるとは想像もせずに・・・・・・。