レインと誰かの学園祭

vol.3「舞台に吹き荒れる愛と欲望の嵐!!

ラストダンスは誰の手に!?その2!」

 



「え、ぇえっ!!?」

いきなり魔法使いに舞踏会へのエスコートかキスかの二者択一を迫られたシンデレラは、あからさまに戸惑いの声をあげた。

・・・そりゃそうだろう。

台本に無い以前に、こんな二択を迫られたシンデレラなんて前代未聞だ。

 

――結局、まだましな「舞踏会へのエスコート」を選んだシンデレラは、満面の笑みの魔法使いとともに城を訪れる。

ようやく、王子役のオレの出番だ。

魔法使いの衣装のトーマが、シンデレラのレインの手を引くのを見やる。

1つ小さな息をついて一歩踏み出す。

・・・そんな手、すぐ振りほどいてやる。

 

舞台を照らすライトの中、螺旋階段の上に立つ。

「なんて美しい姫君なんだ。

どうか、私と踊って下さい」

そう言ってレインの手を取り、大広間の中央へと進んで行く、

・・・はずだった。

 

「・・・・・・・・・・・・・」

無言のまま、レインに向かって手を突き出す小さな影がオレの行く手を阻んだ。

ファンゴだ。

「え、あ、あの?」

レインは、どうしたらいいのか分からず目をしばたたかせている。

「・・・オレと、踊って、くれ」

ファンゴ、お前もか。

大体、お前はクラス(というか学年自体)違うはずだろう、何さりげなく乱入してるんだ!

オレはレインを救い出そうと、急いで階段を駆け下りた。

 

「君、シンデレラが困っているじゃないか、悪いけど遠慮してもらえないかな?」

そうそう。て、お前が言うな、トーマ。

「そいつは、お前のものじゃない」

そうそう。て、お前のものでも無いだろう、ファンゴ。

不毛な2人の争いを止めようと、オレが進み出ようとした時、またも行く手を阻まれた。

 

「ちょっと、いい加減にしなさいよ、あんた達!!」

赤い髪をなびかせた、イジワルお姉さん、いやイジワルお姉さん「役」のファインだった。

なんだかんだ言っても姉妹だ。

困っているレインを見ていてもたってもいられなかったのだろう。

「私のシンデレラに手ぇ出そうなんて、1億5千8百万年早いのよ!!」

・・・ん?

なんとなく「姉妹愛」とは異なるニュアンスの発言が聞こえた気がするが気のせいか?

うん、やはり気のせいだよな。そんなはず・・・

「だから舞踏会に来させるのはイヤだったのよ!

こんな獣の群れに私の大事なシンデレラを!!」

・・・・オレは頭を抱えた。

激しく頭が痛い。

何だって、こんなヤツばかりなんだ。

 

「何を言ってるんだ、イジワルお姉さん。

君は、いつもシンデレラをいじめてばかりいたじゃないか」

自分の存在の理不尽さを無視して、トーマがファインに突っ込む。

そうだ、その通りだ。

「だって、シンデレラの可愛らしさを見てるとムラムラといじめたくなっちゃうのよ!!」

は?

「ああ、でも私もこれからは心を入れ替えるわ☆

シンデレラ、一生貴女を大切にするから、早くこんなところは出て、私たちの家に帰りましょう?」

おいおい、話を激しく変えるな!

「ぇと、あの、お姉さま・・・?」

「何も言わなくていいの!

私たち、いつでも一緒よ!!」

「ぇえ・・・っ、むぐぅっ!!」

ファインは思いっきりレインを抱きしめ、レインの叫びは無情にもファインの腕の中で押し殺された。

会場中が戸惑っている中、ファインは音楽担当のノーチェに目配せをする。

すると、ノーチェは慌てて感動的な音楽を奏でた。

クライマックスだ。

これは感動的なエンディングなのだ。

そう観客に思い込ませるには十分な演奏だった(オレにとっては不幸な事に)。

客席から拍手が沸き起こる。

トーマ、ファンゴ、そして王子役のオレの存在すら忘れ去られた舞台上で、ファインだけが満面の笑みを浮かべていた。

 

 

――パチパチと、火のはぜる音がする。

日の暮れた校庭の真ん中では、キャンプファイヤーが焚かれていた。

スピーカーからはフォークダンスの音楽が鳴り、数人が円を描いて踊っている。

オレは、その光景を傍らで立ったまま眺めていた。

辺りを暖かなオレンジ色に染める炎を見つめながら、オレは溜め息をつく。

・・・これが、溜め息をつかずにいられるか。

 

エクリプス時代につちかった手腕を生かして、もぎ取った王子役だったのに、まさかあんなラストになるなんて。

しかも、あの『シンデレラ』が「斬新な演出」だとか「新解釈」だとか言って、学園祭優秀賞を獲得してしまったのだから、オレのダメージはかなりのものだった。

オレは一体なんなんだ・・・。

その時、誰かがオレの袖を引っ張った。

 

「シェイド、こんなとこにいた」

振り返ると、柔らかな笑みを浮かべたレインが立っていた。

「レイン・・・」

「も〜、姿が見えないから探しちゃったじゃないっ」

「・・・あ、すまない」

わざとらしく膨れてみせるレインに、思わず素直に謝る。

それに対して、ふふっと笑ったレインはオレの目を見つめると言った。

「ねぇ、一緒に踊りましょう?」

え?

驚いたのが、表情にもでていたのだろう。

「イヤ・・・?」

不安げな顔で聞いてくる。

そんなはず・・・!!

「そんなはず無いだろう!!!」

思わず声を強めてしまった。

レインは瞬間、目を見開いてから、また微笑んだ。

「良かった〜。

私ね?実は劇でシェイドと踊るの楽しみにしていたの。

でも、結局はあんな感じになっちゃったでしょ・・・?

だから、と思って」

 

・・・ああ、やばい。

また惚れ直した。

どうして、レインはオレの欲しい言葉を知っているんだろう。

オレはレインの顔を真っ直ぐ見つめる。

長い睫毛、くるくると表情を変える優しい色をした目。

眉毛も鼻も唇も、何もかもが愛しい。

抱きしめたい。

思いっきり力をこめて自分の腕の中に納めてしまいたい。

 

1つ、小さな息をついて衝動的になる心をなだめる。

そしてレインに片手を差し出す。

「それでは、お手をどうぞ。シンデレラ?」

言いたくて言えなかった王子のセリフ。

そっと、レインの手がオレの手に重ねられる。

「――ええ、王子様。喜んで」

 

レインの両手を取り、1つ目のステップを踏み出そうとした時、ふいに上を見上げた。

キャンプファイヤーの火の粉が、空へと巻き上げられていく。

慌しかった学園祭も、そろそろ終わりが近づいていた――。

 

fin.

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このSSはカナ様の「シェイド、ファンゴ、トーマ、ファイン→レインのレイン総受けの学園祭SS」というリクから。
複数のキャラが入り乱れる話と、学園祭の雰囲気を思い出して、非常に楽しく書かせて頂きました。
管理人のテンションを反映して、全員壊れまくりのアホっぽさ全開です。
カナ様、ありがとうございました。