2人のシェイドU:閉ざされた庭園\
胸の中の炎。
恋する思いのことをしばしば、そう表現する事があるが、正直、オレは「古臭い表現だな」なんていう風に思っていた。
だが、最初にこの言葉を使った人に謝ろう。
申し訳ない。
ものすごく的確な表現です。
今日、それを思い知りました。
もう消えてしまったと思っていた炎が、灰と炭だけの胸の内から、チロチロと赤い舌を出し始めている。
そして、自分でも予感がする。
――この炎は、以前よりも大きく燃え上がってしまうだろうと。
だが、この甦ってしまった想いを、どうしたらいいって言うんだ?
オレとレインでは住む世界が違う。
10年前だって、そう思って諦めたんだ。
それなのに、今更・・・。
「どうしたの、エクリプス?」
「え?」
不意に声をかけられて驚く。
慌てて周りを見回すと、オレ達はもうすでに庭園の出口である井戸を出たところだった。
いつの間に。
「あ、ごめん。
考え事、してた・・・」
本当に上の空だった。
実を言えば、レインから「エクリプス」と、自分の本当の名前を呼ばれてから、ずっと上の空だった。
・・・戸惑ってるんだ。
自分の気持ちに。
そして、知りたくて仕方がないんだ。
レイン、君の気持ちを。
「レイン、どうして、この時間にこの庭園に来たんだ?」
「え?」
レインは何を今更、というような顔をする。
「だって『いつかまた2人でこの庭園に来よう』って約束だったじゃない?」
オレはゆるゆると首を振る。
「それだったら、同窓会が終わってからでも良かっただろ?
どうして、まだパーティーも始まったばかりの今、この庭園に来たんだ?
・・・他の友達との再会を放り出してまで、ここに」
オレはレインの目を真っ直ぐ見る。
・・・どうして、なんだ?
どうして、ここに来た?
オレは自分に都合のいい想像をしようとしている。
もしかしたら、レインもオレのことを、なんて、そんな都合のいい想像を・・・。
レイン、頼む。
オレのこの想像をただの妄想なのだと、キッパリ切り捨ててしまってくれ。
そうすれば、オレはこの胸の炎を消せる。
きっと、今ならまだ間に合うから・・・。
レインの緑の瞳が揺れる。
「それは・・・・・・、その・・・」
かすかにレインの頬が赤く染まっているような気がする。
どうしたんだ?
はやく否定してくれ。
そうでないと、オレは、もう抑えきれない・・・。
急に、クンッと服が下に引っ張られた。
下を見ると、レインの手がオレのマントの裾をキュッと握り締めていた。
その手がかすかに震えているように見える。
「エクリプス、私・・・」
オレを見上げるレインの目が小さく潤んでいる。
言葉を続けようとするレインの唇に、オレは人差し指を寄せた。
制止するオレの指に、レインは出かけた言葉を飲み込む。
オレは唾をゴクンと飲み込む。
・・・ヤバい。
思わず出した人差し指に後悔した。
レインがもしもオレの「都合のいい想像」通りの言葉を口にしたなら、オレは自分を止める術を知らない。
だからこそ、レインの唇に指をあてて、その言葉を制した。
――それなのに、なんて事だ。
逆効果だ。
自分の気持ちを止めるどころか、むしろ・・・。
触れた人差し指から、レインの唇の温もりが伝わってくる。
レインの上目遣いの瞳から目が離せない。
どうしよう・・・、キス、したい。
レインの唇をそっと指でなぞる。
引き寄せられるように顔を近づける。
少しずつレインとオレの距離が縮まる。
吐息がオレの唇にかかる。
・・・レイン、何で嫌がらないんだ?
――唇が触れるまで、あと1mm.。
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