2人のシェイド 続編:閉ざされた庭園Z
ロイヤルワンダープラネットに降り立つと、急に過去に戻ったような錯覚を覚えた。
駅の風景は、この10年で、多少の改修の跡はあったが、ほとんど変わっていない。
ざわめく人々の声。
行き交う足音。
そのどれもが、10年前とは違うはずなのに、10年前と同じ響きを持って、耳に入ってくる。
「・・・懐かしいな」
シェイドが自分の気持ちを確認するかのように呟く。
「あぁ」
オレは一言だけ返す。
たぶん、お互いにそれ以上の言葉は、今、必要なかったから。
「やぁ、シェイド!よう来たな〜!汚いとこやけど、ゆっくりして行き」
「て、ここはアンタの家とちゃうっちゅーねん!」
同窓会の会場に着いた途端、ドツキ漫才で迎えられた。
「・・・相変わらずだな、レモンにメロン」
シェイドは苦笑しながら、そう返す。
オレも心の中で同じセリフを呟く。
お笑いに命をかけるナニワン星のプリンセス・レモンとプリンス・メロン。
手にしたハリセンまでも相変わらずだ。
「いやいや、ウチらを10年前と同じやと思たら大間違いやで〜。
修行を重ねてツッコミのキレも増しとるからな!
あとでやるステージ、楽しみにしといてや!!」
レモンが張り切って立てた親指を前に突き出す。
すると、ふいにメロンがオレの方を見た。
「こっちの人は?」
「ん、あ、警備の人だよ」
「警備の?こんなとこまでか?」
「し、新入りなんだ。
勉強になると思って、連れてきた」
シェイドが珍しく言葉を詰まらせている。
少し言い訳くさいかな、と思いながら、オレは無言で頭を下げる。
「ふーん。 シェイドの国も結構厳しいんやな〜」
メロンは難しい顔をして頷いた。
同窓会にまで警備の兵を連れてきてるんだ、そう思われるのもムリは無い。
まあ、ともあれこれでオレがここにいても変には思われないだろう。
いちいち皆に説明する手間も省けた。
(この2人に話したら全員に話したのと同じだ)
オレは一息ついて、周りを見渡した。
・・・なるほど、懐かしい顔が揃っている。
「あ!シェイド!!」
こちらに気付いたファインとブライトが駆け寄ってくる。
ファインは長く伸ばした赤い髪を揺らせる。
少し、キレイになったようだ。
ブライトは背も肩幅も大きくなって、全体的にたくましくなっている。
2人とも成長して大人っぽくなった。
だが――。
オレは思わず嬉しくなる。
2人の、人を楽しくさせるような笑顔は、全然変わってない。
シェイドの横で、懐かしく2人を眺めてる時に、ふいにレインがいない事に気付いた。
はじめは会場の中のどこか別の所にいるのだろうと思っていた。
だが、さりげなく周りを見てみたがどこにもいないのだ。
・・・今日は来ていないのか?
オレは胸の中が急にポッカリと穴が開いたように寂しくなった。
ここに来なければ、会う可能性も無かったのに、何を今更、寂しがってるんだ。
そう自分に言い聞かせても、目はあの青い髪の少女の姿を探してしまう。
「・・・レインはどうした?」
シェイドが、オレの心が聞こえたかのように口にした。
ファインがそれに答える。
「えっとね、来てるのは来てるんだよ。
ただ、少し前に会場から出て行っちゃたの」
「? 何かあったのか?」
「う〜ん、分かんない。
ただ『用事を思い出したから』としか言ってなかったし」
「あ、でも・・・」
ブライトが口をはさむ。
「その前に何かに気付いて、驚いた表情をしてたよ」
・・・何かに驚いた?
一体、何があったっていうのだろう?
そのうちにシェイドの周りには懐かしい顔ぶれが集まってきた。
オレは、その会話に耳を傾けながら窓の外を見る。
いい天気だ。
遠くに図書館の屋根が見える。
・・・久しぶりに行ってみたいな。
コッソリとシェイドに耳打ちする。
「ちょっと、そこら辺歩いてくる」
「ん、あぁ、後でオレも行くよ」
「ああ、ゆっくりな」
よく調べ物をしていた図書室は、本が多少増えてはいたが、ほとんど何も変わっていなかった。
民間の学校や図書館には無い本がたくさんあったので、むさぼるように読んでいたことを思い出す。
懐かしい光景が甦って、嬉しくなった。
――そうだ、あそこにも行ってみよう。
放課後には必ず行った温室。
10年前、学園を去った時、突然だったせいで誰にも後を頼んでいなかった。
おそらくは荒れ果てているだろう。
いや、もしかしたら温室自体がなくなっているかもしれないな。
諦めにも似た気持ちで温室のあったバラ園へと向かうと、そこに昔のままの姿で温室があった。
恐る恐る中を覗いてみると、よく手入れされた植物たちがオレを迎えてくれた。
真ん中に一際大きな植木鉢がある。
「これ、オレが学園を出る直前に植えた苗だ・・・」
10年前には小さな苗だった木が、今は自分の背丈ほどにまでなっている。
驚いて見つめていると、後ろから声をかけられた。
「ここに誰かが尋ねてくるなんて珍しいな」
振り返ると、そこには庭師のクレソンさんがいた。
「あ、いや、その・・・」
いきなりの登場にしどろもどろになる。
「え、と、いい温室ですね」
ようやく言えたセリフがこれか、オレ。
だがクレソンさんは変に思った様子も無く微笑んだ。
「ありがとう。
元々は昔、ある生徒がやっていた温室なんですよ。
薬草を育てる為に、ね」
クレソンさんの表情は昔と変わらずとても穏やかだった。
どうやら、オレが『その生徒』であることには気付いていないようだ。
「そうなんですか。
じゃあ、その生徒が卒業してからは、ずっと貴方が?」
さりげなく、さっきからずっと聞きたかった事を聞いてみる。
すると、返ってきたのは意外な言葉だった。
「いや、それがチョット違うんですよ」
「え?」
「いや確かにね、今ここの世話をしているのは私なんですよ。
ただ1番初めに世話をしていた生徒はね、卒業する少し前に何故か世話するのを止めてしまってね。
その後は、その生徒の友達が代わって世話をしていたよ」
・・・『最初の生徒』が世話を止めたのは、たぶんオレが学園を離れた時だ。
だが、『代わって世話をしてくれた生徒』というのは誰だろう?
「その、代わって世話をしていた生徒、というのは・・・?」
オレが尋ねるとクレソンさんは優しい目をして遠くを見た。
おそらく、昔を懐かしんでいるのだろう。
「・・・優しい、いい子でしたよ。
その子が卒業する時に、私に後の世話を頼んでいったんですけどね。
温室に入って、植物たちが本当に大切に手入れされてた事が、よく分かりました」
クレソンさんが植物たちを示す。
「ここにある植物は、初めの生徒が植えていった時のものがそのままあるんですよ。
代わりに育ててた子が、1つとして枯らさないよう、大切に大切に育てていたんです。
だから私もそれを受け継いで・・・。
10年、ここの植物たちと一緒に時を重ねてきました」
そう言って植物を見るクレソンさんの目は、子供を慈しむ親のようだ。
植物たちも、それに応えるかのように光を受けてきらめいている。
「・・・そうだ」
ふいにクレソンさんが、こちらを振り向いて片目を瞑った。
秘密の打ち明け話をする時の合図のようだ。
「ほとんどの植物は、さっき言った通り『初めの生徒』が植えたものなんですけどね、1つだけ違うんですよ」
「・・・1つだけ?」
「ええ、1つだけ、『代わりに世話をした生徒』が植えたものがあるんですよ。
・・・あの花です」
スッと、クレソンさんが人差し指で、ある一点を示す。
その指の先を辿ると、
そこには可愛らしいピンクのチューリップが咲いていた。
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ま、またレイン様が出せなかった・・・(汗)
『代わって世話をしていた生徒』が誰なのか、は次回であきらかに・・・。
(1期からのファンの方は、『ピンクのチューリップ』で想像つきますよね?)
次回こそはレイン様、出ます!!