2人のシェイド 続編:閉ざされた庭園Y
ある日、オレは月の国の城から呼び出された。
呼び出された、と言うと何か『イジメッ子に体育館裏に』とか『悪さをして警察に』なんていう感じだが、大した事はない。
ここ数年、オレとシェイドが話をしたい時は、オレが城に出向くように決めてあるだけだ。
もう、幼い頃とは違う。
次期国王がそう簡単に出歩く訳にはいかないのだ。
「同窓会に行かないか?」
城に着くなり、そう言われた。
「へ?」
思わずオレは情けない声をあげた。
思いもしていなかった事を言われたら、人なんて大体こんなものだ。
で、シェイドの誘いにオレがどうしたかと言うと・・・。
オレは普通に断った。
この判断を疑問に思う人のために、理由を箇条書きにするなら、こんな感じだ。
@仕事が忙しい。
A学園に行っていたのは、あくまで『シェイドの代わり』だった。
B卒業したのもシェイドだ。
C上記のABから導き出される結論として、オレが行く必要なんか無い。
オレは理路整然と、そう言って断ってみせた。
それに対して、シェイドの答えは『理路整然』の欠片もなかった。
「そういう問題じゃないから」
・・・じゃぁ、どういう問題なんだよ。
という反論すら、思わず口から出るのをためらうようなキッパリとした口調だった。
だが、オレもただ負けてはいない。
問題は、まだ残っているんだ。
つまり
『どうやってオレが同窓会に参加するのか?』
しつこいようだが再び箇条書きで行こう。
@今更、シェイドに成りすますなんて出来ない。
(双子とはいえ、成長するにしたがってオレ達の見た目は多少なりとも違ってきている)
A一緒に参加するのはムリだ。
(多少違うとは言え、ほぼ同じ顔をした人間が2人並んでいたら、たちまち大騒ぎになってしまう)
すると、シェイドは事も無げにこう答えた。
「まあ、何とかするさ」
「・・・何とか、なるのか?」
自信満々なシェイドに反論する事も出来ずに、オレは月の国の城を後にした。
まあ、あいつが「何とかする」って言ってるんだから大丈夫なんだろう。
オレは何も考えずに当日を待とう。
確かに久しぶりに学園も見てみたいし、仕事だってたまには休みたい。
同窓会、か。いいかもしれない。
オレは晴れ渡った空を見上げて大きく伸びをした。
?
そういえば、さっきの会話、前にもしたような気が・・・。
『まあ、何とかするさ』
『・・・何とか、なるのか?』
「いつ、だったかな?
・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・まぁ、いいか」
――それから1ヶ月後。
宇宙を分け入るように進んでいく汽車。
10年ぶりの眺めだ。
ふいにシェイドが口を開いた。
「なんか、思い出すな、10年前を」
「・・・方向は逆だけどな ・・・・・・・・・。
なぁシェイド・・・」
「ん?」
「この服、今だけでも脱いだらダメか?」
オレは腕を広げて、シェイドに服を示して見せた。
今、オレが着せられているのは月の国の警備兵の制服。
シェイドと一緒に同窓会に行く為の変装だ。
これがシェイドの言っていた『何とかする』という事らしい。
この警備兵の服のチョイスには、いくつか理由があるらしい。
まず防具で顎辺りまで隠れている。
次にマントで体全体を隠せる。
さらにはフードまで付いているので、顔まで隠せる。
このように全身隠せる上に、『警備の為』という名目でウロチョロしても、咎められづらい。
まさに一石四鳥、なのだが・・・、唯一難点を挙げるなら『重い』。
マントをスッポリ被っているので、傍目には分かりづらいが全身に防具を身につけているので、かなりの重量なのだ。
座ってるだけでも意外と重労働だったりする。
この衣装の大変さを訴えるオレに、シェイドは小さく苦笑した。
「悪いけど、耐えてくれ。
今回は特別列車じゃないから他の乗客もいるからな。
万が一、見られるとマズい」
「・・・・・・。」
まぁ、分かってはいたので、反論する気は無い。
ただ疑問はある。
「なあ、大体どうしてこんなにしてまで、オレを同窓会につれて行きたがるんだ?」
「・・・・・・大した理由は無い」
「・・・シェイド、オレを誤魔化せると思ってるのか?
お前は、大した理由も無しに動くようなヤツじゃない」
「・・・あまり嬉しくない評価のされかただな」
シェイドは、そう言ってまた苦笑してから、言葉を続けた。
「でも、本当に大した理由じゃないんだ。
ただ、な・・・、あの学園はオレ達2人にとっての思い出の場所だろ?
なのに、そこで2人一緒に過ごした事は無いんだな、と・・・。
・・・ちょっと、そんな事を思っただけだ」
――なんて、オレはバカなんだろう。
オレにとって同窓会なんて、ただの昔を懐かしむ会としか映っていなかった。
だがシェイドは、この機会に、学園でオレと一緒に過ごしたかったのだ。
・・・それは、昔、オレが望んでいた事、そのままじゃないか。
オレはシェイドの身代わりとして学園に入学した。
逆に言えば、身代わりでなければロイヤルワンダー学園には入学できなかった。
あの学園は、王族か、それに準ずる才能を持ったものしか入れない。
そして、シェイドの身代わりでなければ入れないという事は、オレとシェイドは一緒に学園にいる事は出来ないという事なのだ。
――ずっと、学園での日々を過ごしながら、何度思っただろう。
『ここにシェイドがいたら、きっともっと楽しいだろう』
オレは、当たり前の兄弟のようにして、あの学園にシェイドと共にいたかった。
・・・・・・シェイド、お前も同じ事を思っていたのか。
窓の外を彗星が横切った。
オレは、それに目を奪われたふりをして、滲んできた涙をごまかした。
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※成長したシェイドの正装とエクリプスの警備兵姿のイメージイラスト描いてあります。
簡単なクロッキーみたいなものですが、見て頂くとイメージしやすく読みやすくなるかと思います。
もし宜しければ、こちらからどうぞ→イメージイラストを見る。