ファインは、アルテッサの結婚を聞いてレインとまったく同じリアクションをして、それをアルテッサに笑われた。
ブライトは、花嫁の兄として色々と準備に忙しいらしく、そのことを嬉しそうにぼやいてみせた。
いつもだったら、はじけるような笑顔でそんな様子を見ているはずのレインは、ただ曖昧な微笑みを浮かべていた。
どう受け止めたらいいのか分からなかったのだ。
ブライトは、自分と二人きりの時、自然な笑顔を見せない。
そのことに気づいてしまったから。
そして、レインの胸に浮かんだ疑問。
私は、ブライトさまと二人きりの時に自然に笑えていただろうか?
それに迷い無く「YES」とは言えなかった。
いつだって、レインはブライトといると、自分を良く見せようとあせってみたり、気にしなくていいことを気にしたり、いつもあせっていたような気がする。
真っ白な病室の中でレインは、ブライトとの間に見えないガラスの壁があるような錯覚がした。
「それじゃあね、レイン。
またお見舞いに来るよ」
「ありがとうブライトさま」
「良くなってきてるからって無茶したりしたら承知しませんわよ」
「わかったわ、アルテッサ」
日もすっかり落ち、窓の外が夜の深い群青色に染まり始めたのを頃合に、ブライトとアルテッサは帰っていく。
レインは二人を手を振って見送ってから、傍らのファインに向き直る。
「…ファインは、どうして一緒に帰らなかったの?
もう暗いし危ないわよ?」
だが、ファインは、そのレインの問いが聞こえなかったかのように、閉じられた病室のドアを見つめたままでいる。
「…ファイン?」
動かないままのファインの瞳はまばたきを忘れたかのようだ。
そうして、ゆっくりとファインの唇が動く。
「私…、やっぱり病気みたい」
「え?」
思わず聞き返す。
「だってね、苦しくて仕方ないの」
ファインは自分の胸を手で押さえ、レインにむかって訴える。
「…ブライトといると苦しいの。
ブライトが、レインと付き合い始めたころからずっと…、私の心臓、おかしいの」
「ブライトさまといると…?
って、ファイン、それってまさか…!」
「レイン、これどういう病気なの?
苦しくって仕方がないよぉ」
――ど、どう言ったらいいんだろう。
そして、私はどうしたらいんだろう。
ファインは、恋をしているのだ。
それも、ずっと何でもないただの友達だと思ってきたブライトに。
ブライトが『レインの恋人』になってしまって、自分のそばにいなくなってはじめて、その想いを自覚したのだ。
ファインの姉として、そしてブライトの恋人として、私はいったい、どういう結論を出せばいいの?
思考が停止しかけたレインの耳に、誰かが歌うクリスマスキャロルが遠く響いた。