square garden:2章 『不安なんです』

 

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「ふぁ〜〜っ、疲れた〜!!」

帰ってくるなり、私はそう呟いて、ベッドにつっぷした。

そうして、しばらく洗いたてのシーツの心地よさを噛み締める。

・・・・・

「いけないいけない、こんな事言っちゃダメだわ」

むっくり起き上がって両頬を軽く平手で打つ。

 

ブライト様に告白されて、迷った末にOKしたのが数週間前。

それから何度目かのデートから帰ってきたところだった。

あ、誤解しないでほしいけど、決して楽しくなかったわけじゃないの。

ブライト様は人を楽しませる事や、喜ばせる事を知ってる人だから色んなところで気を使ってくれて、それがイヤな感じじゃなくて、とても心地いいし。

しかも、ふしぎ星中の女の子(私もその1人だったわけだけど)の憧れの的だから、2人でいると注目されたり、うらやましがられたりして、それもチョッピリ優越感で嬉しかったし。

それにそれに、会話もずっと尽きなかったし。

 

――というより、尽きないように必死だったんだけど。

なんだか私、ブライト様と2人きりだと思うと変に緊張しちゃって。

「あ、あ、あの」

なんて出だしから舌がもつれるのなんて、もう癖みたいになってきた。

それでも、2人とも色々な話題を次から次へと話し続けてた。

この前読んだ本の事や、小さな時飼ってたペットの事、果ては昨日の夕ご飯の事まで・・・。

別に今日、2人の何回目かのデートの時に言わなくたっていい話題ばっかりだった。

しかも、なぜか会話が膨らまなくって・・・。

「あ、そういえば昨日の夕ご飯にピーマンが出たの。

私、あれ苦手なんです〜」

「へー、そうなんだ。

僕は意外と好きだよ?」

「あ、そうなんですか?」

「うん」

・・・・終わり。

今、部屋に戻ってから思い返すと、やろうと思えばどうにでも膨らませられた気がする。

たとえば

「え〜、ピーマン好きなんですか?何か、好きになったきっかけとかは?

ふんふん、特にそういうのは無くもともと・・・。

調理方法が私のところとは違ったりするのかしら?

ちなみにピーマン料理で好きなのは?

へ〜、それは食べた事無〜い。

1度作ってもらおv レシピとか宝石の国の料理長さんに聞けば教えてくれるかしら?

あ、それじゃぁ今度お邪魔させてもらいま〜す☆」

なんていう風に、話を膨らませてなおかつ次に遊びに行く約束まで取り付ける事だって可能だったのに。

 

ブライト様と2人でいると、沈黙は怖いくせに、頭の回転がきかなくって、そんな切れ切れの会話ばかりを繰り返してる。

なんだか、間がもたなくて不安になる。

沈黙が長ければ長いほど、ブライト様が私の事つまらない子だって思ってるんじゃないかとか、やっぱり告白したの間違えたとか思ってるんじゃないかとか、そんな事を考えてしまう。

「ふぅ・・・」

小さくため息をついて、天井を見上げる。

白く四角に縁どられた月の国の庭園が頭に浮かんだ。

ブライト様に告白された日に相談に行って以来、あそこには行っていなかった。

『オレが意見するのはフェアじゃない』

シェイドのあのセリフが気になって、でもその意味を聞くことも出来なくって。

 

「・・・何に対してフェアじゃないの?」

ポツリと呟いた言葉は、部屋の中に置き去りにされたままで。

はじめっから言葉を返してくれるはずもない、タンスとか本とかすら憎らしくなる。

ゴロリと寝返りをうって枕に顔をうずめる。

何か消化しきれないものが胃の中にあるように、胸の奥が不安に震えている。

 

――シェイド、今そばにいて欲しいのに・・・。