第6章:夢に香る花 |
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ザァッ!!
襲い来る蔓を次々と断ち切る。
レインと魔物が消えた後も、ドリームシードは次々と蔓を吐き出してくる。
「クソッ、きりが無いな」
額の汗をぬぐう。
どうにかする方法はないか?
考えを巡らせている時、頭上から声がした。
「シェイドーーー!!!」
見上げると、宝石の国の飛行船と、そこから顔を出すファインとブライトがいた。
どうしたんだ?こんな所に・・・・
そう思って聞こうとするより早く、ファインが叫んだ。
「ふ せ て 〜!!!」
は!!??
いきなりの事に戸惑っているオレの目に、飛行船から打ち出される弾が見えた。
―――馬鹿野郎、
打ってから、忠告するな!!
ちゅどーーーーん!!
大きな音をたてて銀色の巨大な弾が着地した。
そして、その中から現れたのは・・・
これまた巨大なロボット・・・。
「ブライト様が作ったものでプモね・・・」
「そう、みたいだな・・・」
ロボットは、間抜けな顔で高枝切りバサミの様な腕を8本持っていた。
「ぐお〜!」
そして、間抜けな声をあげると大量の蔓に腕を振り上げた。
あれだけあった蔓が、あっと言う間に一掃されてしまった。
ロボットは嬉しそうに小躍りしている・・・。
―――オレの、シリアスな時間を返してくれ。
「シェイド〜、大丈夫〜?」
「いや〜、改良型の伐採ロボットの威力はなかなかだね〜v」
ニコニコしながらファインとブライトが飛行船から降りてくる。
・・・この2人が出てくると、なんでこんな展開になるんだろう。
自分のロボットの活躍にブライトは機嫌良さそうだ。
「やあ、シェイド。元気かい?」
「何で、ここにいるんだ? しかもあんなロボットまで・・・」
ふいにブライトの笑顔が静まった。
「あの化け物蔓が現れたのはタネタネの国だけじゃないんだよ」
「え?」
「少し前から、色々な国で同じような蔓がみんなを襲ってるの」
「まあ、この僕が開発したロボットで全て退治してやったけどね★」
ブライトの満面の笑みのバックに少女マンガばりのキラキラした光が見える、気がする・・・。
「レイン・・・」
「え?」
「あの魔物がレインを操って、ドリームシードを大量に手に入れたんだ」
「!!」
「かなり強い支配のようで、自分の意思では話す事も動く事も出来ないようだった」
指先で目尻の傷に触れる。
レインが付けた傷に。
「・・・」
以前、レインと同じように闇に操られた事のあるブライトは、ぐっと言葉に詰まった。
ふいに手に温もりが触れた。
ファインがオレとブライトの手を握り締めてニコッと笑った。
「レインは魔物なんかに負けたりしないよ!!」
少し前にオレがレインに言ったのと同じセリフ。
そうだったな。
どうしてだろう、心が弱くなっていた。
「ブライトの時だって元に戻ったし、それに、レインは私のお姉ちゃんだもん☆」
最後のは理由になってない気もするが、でも、その通りだ。
「きっと、レインならこう言うよ」
ああ、そうだな。
きっと――、
「だいじょうぶ、だいじょうぶっ」
3人とプーモは声を揃えてレインの口癖を言って、顔を見合わせて笑った。
レインの笑顔を思い出す。
オレは、ホッとしたのか体の力が抜けたようになった。
急にグラリと揺れる俺の姿に驚いて、ファインとブライトが、その両手を差し出す。
「大丈夫だ、ちょっと、疲れた、だけ・・・だから
悪い・・・、ちょっと、眠らせて・・くれないか・・・」
その後、月の国に連れられたオレは、少し眠って、
1つの、夢を見た―――。
―――甘い、香りがする。
目の前を、白い小さな花が風に乗って舞う。
ここは、どこだ?
あたりを見回すが、この花とオレ以外には何も無い。
レインは、どこにいる?
他の誰がいない事よりも、それがオレを不安にさせて、当ても無くオレは白い世界を走り出した。
次々と降り積もる白い花を、かき分けるようにして進む。
「レイン!!」
何度呼んでも、答えどころか、何の物音もしない。
どれくらい、この世界を走ったのだろう。
行けども行けども、変化の無い、真っ白な世界。
オレは肩で息をして、その光景を眺めた。
「はぁ・・・」
小さな溜め息をつくと、倒れこむように寝転がる。
どうせ、走ってもムダなら、とりあえず止まって考えてみよう。
そう思ったのもあったが、単純に疲れていた。
倒れこむオレを、厚く積もった花が優しく受け止める。
甘い香りに包まれる。
舞い落ちてくる花を見上げながら、オレは思い出した。
この香り―――。
「オレたちの結婚式の日、窓の外に咲いてた花だ」
そう、つぶやいた瞬間、
降り積もっていた花がザァッと音をたてて舞い上がった。
突然の事に、瞬間目を閉じる。
そして、目を開けたオレの前には、
レインがいた。
レインは、ウェディング・ドレスを身に纏い、穏やかに微笑んでいる。
あたりの風景も、式を行った神殿の控え室になっている。
まるで、過去に帰ってきたみたいに。
「ねぇ、シェイド。something
four(サムシング・フォー)って知ってる?」
レインは、あの日と同じセリフを言う。
「何だ、それは?」
口が勝手に、あの日と同じ言葉を言い始める。
これは、過去の再現なのか?
「花嫁さんが幸せになる、おまじないよ」
笑ってレインが返す。
「ある4つの物を身に着けてると幸せになれるの」
「4つ?」
「そう、まず1つ目がsomething
new(サムシング・ニュー)、新しい物。
2つ目がsomething
old(サムシング・オールド)、古い物。
3つ目はsomething
borrowerd(サムシング・バロゥァード)、借りた物。
最後がsomething
blue(サムシング・ブルー)、青い物」
「何か、めんどくさそうだな・・・」
「そんな事ないわよ〜!」
「で? 今日は4つとも身につけてるんだろ?」
「もっちろん!」
レインはドレスをひるがえしながら、説明し始める。
「something
newは、このドレス。
something
oldは、おひさまの国に伝わるティアラ。
something
borrowerdはムーンマリア様から借りた真珠のネックレス。
something
blueは、これ。」
その手の中には、深い深い青い石。
これは、確か・・・
「前に言ってた、プリンセス・グレイスから貰った石か?」
「うん、この石には、ふしぎ星のみんなの心が込められてるの」
石は、淡い輝きを放っている。
「私はいつでも、みんなと一緒なの」
「ああ、そうだな」
そっとレインがオレの胸に額を預ける。
「幸せになれるよね、私たち・・・」
「もちろんだ。
まじないの事は知らないが、お前の事はオレが絶対に幸せにする」
オレの言葉にレインが顔を上げる。
「私は、シェイドの事、幸せに出来るかしら?」
――馬鹿、そんな事聞くな。
オレは、レインの頬に指を滑らせる。
「お前がいるだけで、充分だ」
そして、オレを見上げるレインに、口付けを落とした――・・・
夢は、そこで終わりだった。
目覚めると、そこは見慣れた自分の部屋。
誰もいない、静まり返った部屋。
夢の中のレインの感触が、手に、唇に残っている気がする。
それなのに、ここにはお前がいない。
ふと、離れたところに置かれた椅子に目をやる。
椅子の背にはベールがかけられている。
レインが結婚式でつけていたものだ。
あの日、結婚披露パーティーの途中でさらわれた為、レインの花嫁衣裳は、手元には無い。
ただ唯一、このベールだけは式の直後に外されたおかげで、ここにある。
オレは、ベットを出てベールを手に取る。
微かにレインの香りがする。
と、そのベールに花が1つ、付いているのに気付いた。
もう枯れていたが、夢にも出てきた、あの白い花だ。
摘み上げて、顔に寄せると微かに甘い香りがした。
先程の甘い夢が甦る。
「―あの夢を見せてくれたのは、お前か?」
「プーモ!!」
朝の廊下を歩きながら、プーモを探す。
「シェイド様〜、ここでプモ〜!!」
プーモがバルコニーから出てきた。
見てみると、ファインとブライトと一緒に朝のお茶をしていたようだ。
もっとも、ファインは「お茶」程度ではすまないケーキの山に囲まれていたが・・・。
まあ、それはさておき、
「プーモ、朝食が済み次第、すぐ出発するぞ」
「す、すぐでプモか?」
とまどうプーモに、ファインとブライトが続ける。
「気持ちは分かるけど、ちょっと早くない?」
「そうだよ。体調だって万全じゃないんだ。せめて昼までは休んだほうがいい」
「せっかくだが、少しでも早くレインを見つけたいんだ。
――レインを元に戻す方法が、分かった気がするんでね」
「レインを元に戻す方法が!!?」
「本当なの?シェイド!?」
ファインとブライトが勢いこんで聞いてくる。
「もしかしたら、だけどな
ただ、その為にはレインを探し出すのが先決だ」
「・・・・・・」
途端に皆が黙り込んだ。
「レインは闇の中に消えてしまったっていうしな・・・」
「何も手がかりが無いでプモ〜」
「ねぇ、ブライトはブラック・クリスタルに操られてた時、どこにいたの?」
ファインが無邪気な顔で、聞きにくい事を聞く。
「え〜と、ほとんど飛行船で移動してた気がするけど・・・」
さすがのブライトも答えにくそうだ。
「そっか、そういえばチョコチョコ私たちの前に出てきてたよねv」
天然、無邪気の波状攻撃だな・・・。
それでも、笑顔を崩さないブライトには感心する。
「また、砂の神殿に行って神官に占ってもらうか?」
「・・・また、砂漠を横断するんでプモか?」
一緒に砂漠を渡ったプーモが呟く。
確かに、あれは大変だった。
・・・こんな事なら、ムリヤリにでもあの神官を連れてくるんだった。
その時、月の国の通信士が慌しく入ってきた。
「王子!!レイン様が、かざぐるまの国にいらっしゃるそうです!」
「何!!本当か!!?」
「ただ今、アウラー王子から通信が入っています。お出になられますか?」
「ああ!!」
オレ達は、連れ立って通信室へと向かった。
「アウラー、聞こえるか? シェイドだ」
『ああ、元気かい?』
『ちょっとアウラー!!そんな事言ってる場合じゃございませんのよ!?』
穏やかなアウラーの声に続いて、アルテッサの声が響く。
結婚して夫婦となっても、相変わらずの関係のようだ。
『シェイド!あなたの大切なレインが全身真っ黒の男と一緒に来て、かざぐるまを暴走させてるのよ!
ものすごい風で、外にも出れやしないわ!!
あなた、早く来てお止めなさい!!』
ものすごい勢いで一気にまくしたててくる。
「分かった。すぐに行くから、レインを引きとめていてくれないか?」
『ええ、どうせ何か事情がおありなんでしょ?
さっさと来て解決してから、ゆっくりと説明を聞かせていただきますわ!』
『シェイド!ひどい風だから、飛行船でくるのなら気をつけて!!
こちらも、出来るだけの努力はするよ!』
「ああ、ありがとう。」
彼らの声の後ろに、風のうなる音がする。
きっと、かなりの被害が出ているだろうに、レインやオレを信頼してくれている事に心から感謝した。
通信を切る瞬間、風の音と共に、立ち去ろうとする彼らの声が聞こえた。
『さっすがアルテッサ! 見事な仕切りババァね☆』
『それを言うなら、見事な指揮、ですわっ!!』
『そうだよ、ソフィー。アルテッサはまだまだババァなんて歳じゃ・・・』
『アウラーッ!!!』
・・・色々と、相変わらずのようだ。
月の国の飛行船発着所へと走る。
「シェイド!その角を右に曲がってくれ!」
「?発着所は、このまま真っ直ぐだぞ!?」
いきなり、何を言い出すんだ?ブライトは。
「僕が新開発した飛行艇が、右に曲がったとこに停めてあるんだ!!」
・・・なんだって?
「・・・なんで、そんなもんが、こんな所にあるんだ?」
「いや〜、月の国の砂漠が飛行実験にちょうど良かったもんでね」
――オレのいない間、月の国で何をしてたんだ・・・?
だが、今はありがたい。
「お前が開発したって事は、例の暴風にも負けないんだろうな?」
「もちろん☆ どんな嵐だって、まっすぐに飛んでいくよ。」
ブライトの宣言通り、新開発の飛行艇の性能は素晴らしかった。
特に、その速度には従来の飛行船は太刀打ち出来ないだろう。
風景が糸のように流れていく。
程なくして、眼前に黒く吹き荒れる風が見えてきた。
「あの風の向こうに、レインがいるんだね」
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