2人のシェイドⅡ:閉ざされた庭園Ⅺ



瞬く星の中を縫うように、列車が進んでいく。

ロイヤルワンダープラネットは窓の外、もうすでに遠くかすんで見えるだけだ。

ふぅっと息を静かに吐き出して、椅子の背もたれに深くもたれ掛かる。

「何だか、同窓会も慌しく終わっちゃったな」

オレは、小声で隣に座るシェイドに話しかける。

本当に慌しかった。

なんだか、色々ありすぎて結局何が何だか分からないまま時間が過ぎていったような気がする。

そんなオレの気持ちまで汲み取ったかのように、シェイドが小さく笑う。

「そうだな。

・・・おかげで予定してた事の半分も出来なかった」

「・・・?

何を予定してたんだ?」

小さく呟くように付け足された言葉に問いかけると、シェイドはギクリとした顔をこちらにむけた。

え。

逆にこちらが驚いてしまった。

なんだ、聞いちゃいけなかったのか?

だったら不用意すぎるぞ、シェイド。

 

お互いに、目を見開いたまま見詰め合っていると、突然上の方から声が降って来た。

「やあ、シェイドもこの列車だったのかい?」

聞き覚えのある柔らかな落ち着いた声に顔をあげると、通路からブライトが微笑んでいた。

――助かった。

このまま、ふしぎ星につくまで二人でにらめっこしてなきゃいけないのかと思った。

だが、ブライトに感謝するのはそこまでだった。

ブライトは、その表情を微かに曇らせて口を開いた。

「・・・シェイド、君は知ってたのかい?」

「・・・何をだ?」

「・・・・・・」

ブライトは言いよどむ。

おい、何を言おうとしてるんだ?

言い知れない不安が、かすかな予感となって胸の奥でざわめく。

「その・・・、僕も今ファインに聞いて知ったんだけど・・・、その・・・」

何だ?

ハッキリ言ってくれよ。

「レインが・・・・・」

胸の奥のざわめきが一層騒がしくなる。

 

「レインが、遠い星のプリンスと婚約するって」

―――――、

心臓が、苦しい。

まるで強く強く握り締められたみたいだ。

ブライトの言葉に串刺しにされた体が強張っている。

何だって・・・?

なんて言った?

胸の炎が悲鳴を上げている。

――レインが、婚約?

 

溺れたときのように息をあえがせて、シェイドに視線をやると、シェイドの顔は驚くほどに冷静だった。

冷静と言う言葉の文字通りに「冷たいほどに静か」な表情。

オレとブライトは、そのシェイドの怖いほどのオーラにわずかに気圧される。

 

「・・・シ、シェイド?」

ようやくブライトが声をかけると、シェイドは小さく笑んだ。

その笑みは決して優しいものではなく、人を、あるいは全ての物を、凍りつかせるような笑みだった。

そして、シェイドは口元にその笑みを残したまま、口を開いた。

「――知ってるよ、ブライト。

とっくに、な」

オレは心底驚いてシェイドの顔を見つめる。

ブライトも慌ててシェイドに詰め寄る。

「なっ、知ってたって!

それでいいのかい!!?

僕は、僕は、てっきり君はレインの事を・・・!」

思わず声を大きくするブライトを、シェイドが右の手を出して諌める。

「静かにしろ、ブライト。

列車の中だ」

「う・・・」

押し黙るブライトにシェイドが再び笑む。




「そうだ、知ってたよ、ブライト。

レインが婚約することも、そして、それがレインが望んだものじゃないって事もな」

何だって・・・?

オレはその言葉にシェイドの顔を見つめなおす。

シェイドはそんなオレの視線を気にした風もなく続ける。



「なあ、ブライト。

救いを求めてるお姫様がいたら王子はどうすればいい?」

「・・・もちろん、助ける」

ブライトの言葉にシェイドは満足そうに頷く。

「ああ、そうだな。

――そのためには、多少の準備が必要なんだ」