「付き合ってほしいんだ、レイン」

「何にですか?」

 

こんなやり取りをしたのは、おひさまの国の庭園で。

天気は晴れ渡っていて、風は心地いい。

私は15の誕生日を先日迎えたばかりだった。

 

念のために言っておくけど、広く一般的な「お付き合い」の意味を知らなかったわけじゃない。

むしろ昔から、おしゃれとか、格好いい男の子には目がなかった方だった。

しかも、呼び出されて2人きりというシチュエーション。

普通だったらイワユル男女交際・・・、なんだけど。

 

思わず、さっきみたいな言葉を返したのは、目の前にいたのが、

この人だったから。

宝石の国のプリンス・ブライト。

私が、小さい時からずっと憧れてた王子様。

夢にまで見た告白のシーンだった。

 

それなのに「ありえない」と思ってしまうのは、

彼がずっと私の妹のファインの事が好きだったから。

彼に憧れて、ずっと見ていたから知っている。

ファインを見るブライト様の微笑み。

ファインに対しては特別優しくなる、その声音。

ふたごだけど、髪の色も性格も違う。

私が憧れる人は、私を好きなってはくれない。

 

それでも憧れるくらいはいいよね、と思って視線の端で見つめた。

彼の声に耳を澄ませた。

時々、私にくれる優しさに喜びながらも、それは求めるものとは違うと自分を戒めた。

 

だからこそ、「付き合ってほしい」という彼の言葉を、わざと曲解した。

ありえないから。

喜んだり、照れたりしたら、笑われるだけだもの。

「何にですか?」 

そう言って確認せずにはいられなかった。

 

「いや、何にって言われてもなぁ・・・」

ブライト様は、私の言葉に苦笑を返す。

「これからの僕にっていうか・・・、いや言い方を変えようか?

僕の恋人になってほしいんだ」

 

 

 

「――で? 何て答えたんだ?」

「・・・何にも」

「はぁっ!?なんで?」

プリンス・シェイドが大きな声で聞き返す。

 

ここは月の国の室内庭園。

温室のような作りで、熱帯の花が多く咲いていて、小さな川が回廊のように流れている。

白と直線で統一された庭園に、鮮やかな花々が美しい。

お城の中でも、シェイドのお気に入りの場所だった。

 

私は、よくここに来てシェイドに相談事を持ちかけていた。

友達はたくさんいるけど、静かに私の話を聞いてくれるのが心地よかったから。

いつもは「そうか」とか「大変だったな」程度で、あまり喋らないシェイドだけど、今回は別だったみたい。

思いっきり聞き返されて、私は言葉につまる。

「いや、何でって言われても・・・。

突然だったし・・・。」

「ずっと前から、憧れてたんだろ?」

「・・・付き合った方が、いいと思う?」

「それは・・・、オレが意見するのはフェアじゃない」

――何それ?

 

庭園の窓から、暮れていく空を眺める。

割り切れない不思議な感じだけが頭の中をめぐる。

ブライト様は「返事はいつでもいいよ」と言ってくれたけど、

やっぱりまだ答えは出せそうになかった。

 

 




『square garden』:プロローグ