『海と夕立と2人の距離』

 

「ぅわーーーいっ!!」

ファインが歓声を上げて海に飛び込む。

学園のみんなで遊びに来た海岸。

みんなの楽しげな声を聞きながら、私は少し離れた岩だなにいた。

はしゃぎすぎて、チョット疲れちゃったから。

日はまだ高いけど、たぶんもうそろそろ3時くらいにはなっただろう。

 

――吹き抜ける風が心地いい。

空には真っ白な入道雲。

夏は、あんまり好きじゃないけど、こういうのは悪くない。

  

そうそう、今年は初めてファインと別の水着にした。

今までは、ずっとお揃いのだったんだけど。

別に仲が悪くなったとかじゃない。

現に買いに行ったのは2人一緒で、ファインのは私が、私のはファインが選んでくれた。

ファインには明るいオレンジと淡いイエローのボーダーのビキニ。

白いパキッとしたリボンがポイントで、ショートパンツ。

甘いけどスポーティーな感じで、ファインにとても良く似合っている。

私のは、真っ白のミニスカートのビキニ。

ホルターネックになっていて、ストラップには青いビーズが涼しげに光っている。

清楚で可愛らしくて、とっても気に入ってる。

 

私たち、好みも性格も似てるようで全然違う。

だからこそ、大切で、大好きな存在。

 

海を見下ろすと、転びそうになったファインをブライト様が支えるシーンが目に入った。

あんまり、見たくなかったなぁ・・・。

ブライト様はファインが好きで、私はブライト様が好きで。

何もかもが同じようにはいかないの。

どこかですれ違う。

同じ顔をしてるからってブライト様が私を好きになる事はない。

どれだけ考え方が似てたって、ファインが好きなのはブライト様じゃない。

ファインが好きなのは・・・

 

「何してんだ?こんなとこで」

「きゃっ!!!」

突然声をかけられて、思わず声を上げてしまった。

だって、今ちょうど彼のことを考えていたから・・・。

月の国の王子、シェイド。

――ファインの想い人だ。

 

「おいおい、何て声出してんだ」

シェイドはわざとらしく顔をしかめてみせる。

「ご、ごめんなさいっ!ちょ、ちょっとビックリしちゃって」

慌てて謝る私にシェイドは笑う。

「そんな顔するな。別に怒ってるわけじゃない」

ごめん、とその言葉に対しても答えそうになって思わず口をつぐむ。

シェイドは、そんな私の事を気に留めた風も無く、遠くの景色を眺めた。

「へぇ、いい眺めだな」

「でしょ?」

「・・・隣、座ってもいいか?」

断る理由は無い。

「どうぞ?」

座りやすいように横にずれると、空いた所にすとんとシェイドが腰を下ろす。

なんだか、その距離の近さにドキッとする。

男の子と、こんな風に2人っきりになった事なんてなかったから。

  

しばらく2人とも無言で景色を眺める。

――なんで、何も言わないのかしら?

ふいに、そう思ってシェイドの顔を見てみる。

と、シェイドもこちらを見ていたようで、バッチリ目が合ってしまった。

何だか急に顔が熱くなる。

気のせいか、急いでそらしたシェイドの頬も赤くなっていたみたい・・・。

「ね、ねぇ。何か用事があったんじゃないの?」

この場の雰囲気をごまかすように、話し出す。

「いや、別に・・・」

え?じゃあ、何で?

声には出さなかったけど、表情に出ていたのだろう。

シェイドは、軽く苦笑した。

「ちょっと休もうと思って浜に上がったら、お前の姿が見えた。

それだけだ。」

――それだけ、か。

あれ?何で私、今ちょっとがっかりしたの?

 

「何だか、空気が湿ってきたな」

そんな私の疑問をよそに、シェイドが呟く。

確かに、蒸し暑さが増してきたような気がする。

ふと空を見上げた瞬間、

ザァァッ!!!

いきなり激しい雨が降ってきた。

「キャーー!」

濡れてもいい水着姿ではあるけれど、さすがにこんな雨はごめんだ。

海辺にいたみんなは、パラソルの下に避難するみたいだ。

私たちも、あそこまで行こうかしら?

でも、この岩だなからだと少し距離がある――。

迷っていると、ふいに手をつかまれた。

「走るぞ」

シェイドは、そう言って海岸とは別の方に走り出した。

つないだ手が、何だか気恥ずかしい。

大粒の雨が2人を濡らす中、少し行ったところに川と、それにかかる木製の橋があった。

「あの橋の下に入るぞ」

「う、うん」

 

「はぁはぁ・・・」

急に走ったせいで、息がなかなか落ち着かない。

雨は依然として激しく地面を叩き続けている。

ああ、バケツをひっくり返したようって、こういうのを言うんだなんて、どうでもいい事を思ったりした。

すると突然、辺りが真っ白に光った。

ついでドドーンという地面を震わすような大きな音。

―――雷だ。

 

「キャーー!!!」

お化けとかは平気だけど雷だけは苦手な私は、叫び声をあげてシェイドの腕をつかむ。

ドドーーーンッ!!

「いや〜〜っ!!!」

連続して落ちる雷の音や、ゴロゴロいう音が耳に入らないように、これでもかと叫ぶ。

「お、おい、レイン」

至近距離で叫ばれて、シェイドが困り顔でたしなめる。

そんなこと言われたって!

しょうがないじゃない!! だって・・・・・・、

「だって、雷よ!? しかも、すっごく近いじゃない!!」

「〜〜〜っ!」

熱烈に反論する私に、更に困った顔になったシェイドは、

突然、私を強く強く、抱きしめた――。

 

「!!」

私の頭を抱え込むようにしたシェイドが耳元で呟く。

「こうしてれば、ちょっとは聞こえづらいだろう?」

確かに、雷の姿は完全に見えないし、シェイドの腕で両耳が塞がれているので、外の音も聞こえづらくなった。

でも――、今度は鼓動がうるさい。

私の音か、シェイドの音か、近すぎて分からない。

私は、身動きが出来ない。

物理的にじゃなくて。

だって、私、全然抵抗しようともしない。

いっつもケンカばっかりしてるシェイド。

なのに、この腕の中は不思議に落ち着く。

どうして?私は、ブライト様が好きなのに・・・。

 

雨音の中ずっと黙ったまま、私たちは身を寄せ合う。

互いの体温が、次第に1つになるかのように。

 

夏の夕立はすぐ止むっていうけれど、

――今日だけは、もう少し降っていてもいい。






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このSSは、blogのタイトル絵を夏使用に変えた際に、それに合わせて書いたものです。
結局、絵の内容とはかなり離れてしまいましたが・・・。
レイン様が雷苦手か、私は知らないのですが(オイ)、どうなんでしょうか?
怖い物はOKのようですが雷は・・・?

ちなみに、SSの元になったタイトルはこちら↓。
(画像クリックで大きな画像が見れます。)