7/9のシェイドとレイン

 


「キャーーーー!!!」

青空に大きな歓声が響く。

 

ここは、宝石の国にある遊園地。

聞こえる歓声は、そのジェットコースターからのものだ。

あんなものに、わざわざ乗る神経が分からない――、

そう思っていたオレだったが、今日はなぜか、その行列に並んでいた・・・。

 

「今度、最新式のジェットコースターが宝石の国の遊園地に入るんだ。

みんな、良かったら来ないかい?」

思えば1週間前の放課後、ブライトがそう切り出した事が始まりだった。

「わぁ〜、行く行く!!!」

アトラクション等が大好きなファインが、1番に嬉しそうな声を上げた。

もちろん、レインも大乗り気だ。

「ジェットコースターかぁ〜、楽しみ〜v」

と、もう遊園地に思いを馳せている。

周りにいた皆も、ブライトの言葉で一気に盛り上がっている。

 

そんな皆の楽しそうな光景を横目に、オレは本に目を落としていた。

先に言ったように、あまりジェットコースターに興味が無かったからだ。

「ねぇ、シェイドも一緒に行きましょ?」

ふいに、本の向こうにレインの緑の目がのぞいた。

「い、いやオレは・・・」

断ろうとするオレにレインは言葉を重ねる。

「シェイドが一緒だと、嬉しいわ」

 

・・・反則だ、と思った。

「みんな一緒だと」とか「人数は多い方が」とかいった文句だったら、たとえレインからの誘いでも断る気にもなれただろう。

だが、「シェイドが一緒だと」と言われては・・・。

しかも弾けるような笑顔を浮かべて。

 

結局、オレはレインには弱かったわけで・・・。

蒸し暑い初夏の空気の中、にじみ出る汗を拭きながら順番を待つ。

  

「第一、なんで宝石の国の遊園地でプリンスであるブライトやオレたちが並ばなきゃならないんだ?」

ずっと思っていた疑問を口にすると、ブライトが笑顔で返す。

「お客様あっての遊園地だよ?

僕たちだけ特別扱いはいけないよv」

ああ、なんて爽やかなんだ・・・。

ブライトがにっこりと笑った瞬間に涼やかな風が吹いた気がする。

――こいつには夏は関係ないのか。

 

宝石の国のプリンスのすばらしい言葉を拝聴して、静かに順番を待つ事にする。

すると、ふいに頬に冷たい物が触れた。

レインが買ってきたばかりの缶ジュースをオレの頬に押し当てたのだ。

「はい、シェイドv」

「あ、ああ、ありがとう」

突然の事に驚いているとレインが小さく声を上げて前を見た。

「あ、ほら、詰めなきゃ!」

レインがオレの手をとり、駆け出す。


自然と胸が高鳴る。

レインはこんな風にして、オレの心を揺さぶる。

何でもない笑み、親しい者にだけ許される距離。

そんな小さい事に嬉しくなる。

 

――ああ、もう。

蒸し暑い夏の空気も、ジェットコースターも、順番待ちも、全てに感謝してやるよ。

 

 




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7/9はジェットコースターの日、だそうです。
このSSを書く為に、いくつかジェットコースターについてのサイトを回ったりしました。
まぁ、全く活かされてませんが(苦笑)
ジェットコースターマニアの方って結構いらっしゃるんですね〜。