『7/8のシェイドとレイン』
道のアジサイが雨に濡れている。
淡い青色の花を見やりながら、オレは図書館へ向かって歩く。
「よく降るな・・・」
昨日からの雨に小さな溜め息をつきながら、1人そんな言葉が出る。
基本的には雨は好きなほうだ。
自分の故郷である月の国は、周りが砂漠に囲まれている為、雨は非常に貴重な存在だったので。
それに、世界が洗われるようで気持ちもいい。
だが、最近雨の日がやたらと多かったのだ。
そうなると、さすがに溜め息の1つもつきたくなる。
今から図書館に返すために持ってるこの本も、わざわざ濡れないように袋に入れなければいけない。
いつもなら、そのままで何の気遣いもいらないのに・・・。
そんな事を思いながら歩いていると、ふと前方に人影があるのに気がついた。
水色の、花の形の傘の下で、青い髪が揺れている。
―――レインだ。
実は、ずっと以前からレインの事が好きだったオレは、彼女に気付いた瞬間、柄にもなく喜んでしまった。
いくら同じ星の出身とはいえ、学校が休みの日にはなかなか会えない事が多いのだ。
しかも、こんな偶然に出会えるなんて・・・。
少し早足になってレインに近づく。
すると、レインが何となく元気が無いのに気付いた。
足取りも軽くないし、いつもよりうつむき加減だ。
―?
「レイン?」
とりあえず声をかけてみる。
「!! あら、シェイド。おはよう☆」
レインは突然声をかけられて一瞬驚いたようだったが、すぐにいつもの笑顔で返してくれた。
「どうした?何だか元気がなさそうだな」
そう聞くと、また顔をうつむけてしまった。
「うん・・・・」
もしかして・・・
「ファインとケンカでもしたのか?」
彼女のふたごの妹のファイン。
いつも仲のいいファインとケンカしたなら落ち込むのもムリは無いが・・・。
「ううん、違うの!!」
レインは首を振る。
じゃあ、何なんだ?
そう聞きたかったが、あまり深入りされたくない場合もあるだろう。
「まぁ、事情は知らないが元気だせ。
言いたくないなら、聞かないし」
そう言うとレインはまた首を振った。
「言いたくないわけじゃないんだけど・・・。」
―?
「たぶん、すっごくつまらない事なの。
笑われるかもしれないし・・・」
「何だか知らないが、人が落ち込んでる時に笑ったりなんかしないぞ」
「・・・本当?」
「信用出来ないか?」
そう言ってみせると、レインは恥ずかしそうに話し始めた。
「あのね、『七夕』って知ってる?」
たなばた?
「いや、はじめて聞いた」
「昨日シフォンに聞いたの。
遠ーーーい星につたわる昔話なんだって」
――それが、どうしたって言うんだ?
オレ達は、場所を図書館に移して、話を続けた。
学校に付属した図書館は、休みの日は人が少なく、小声なら話しても迷惑にはならない。
レインは星の本を取り出す。
「この星が織姫で、この星が彦星。
間にあるのが天の川って言うんだって。
2人は愛しあってたのに天の川の端と端に引きはなされちゃって、年に1回しか会えないの。
それでね、その年に1回が昨日の7/7なの」
「・・・それで、どうして落ち込んでたんだ?」
「雨が降ると天の川の水かさが増して2人は会えないの・・・」
「・・・なるほど」
雨は、昨日から降り続いている。
その昔話の2人は、年に1回しかない再会を果たせなかったという事か。
「・・・レイン、安心しろ。
2人はきっと会えてるさ」
「どうして?」
「彦星が、そんな川泳いで超えてみせたから」
「えぇっ!!?」
「しーーーっ!!」
いくら人が少なくても、図書館で叫ぶな!
仕草で注意すると、レインはハッとして小声になった。
「ご、ごめんなさい。でも、泳いで、なんて言うから・・・」
「変だったか?」
「だって、天の川はすっごく大きいのよ?
しかも、雨で水かさが増してるのに・・・」
「2人は、愛し合ってるっていったよな?」
「う、うん」
「好きで好きでたまらない相手との1年に1回の再会を、
水かさが増した程度であきらめる訳ないだろ?」
「・・・・」
「川くらい渡ってみせるさ」
「シェイドは・・・」
――ん?
「シェイドだったら、そうする?」
「好きな相手のためならな」
「そっか・・・」
すると、レインは急にニコッと笑った。
「ありがと!!シェイドv
何だか元気が出てきたわ!」
間近で見る笑顔のまぶしさにドキッとする。
そう、好きな相手のためなら、何だってできるさ。
――レイン、お前がオレの気持ちに気付かなくっても。
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たまに思い出したように書く『日付シリーズ』の1作目です。
なぜ7/8だったかというと・・・、
その日に、ふたごが見れなかったんですね。
blogに感想アップするまでの間、SSを置いていたんです。
ちなみに七夕の日に雨が降ってもカササギが橋を渡してくれるので大丈夫なんです。
まぁ遠ーーい星(笑)の話なので、シフォンもそこまでは知らないだろう、と。
あえて、その設定は無視してみました。