『君と一緒に空を見上げて』
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・・・退屈な数学の授業。
公式の説明をする先生の声も、次第に遠くなる。
思わず出そうになる欠伸をかみ殺して、シェイドは窓の外を見た。
まだ夏の風景は残っているが、伸びる影の長さや、時々吹く風の涼しさに、季節が緩やかに秋へと変化しているのが感じられる。
ふと頬杖をついて、遠くの空を眺める。
どこまでも青い空に、ふしぎ星で旅していた頃の事を思い出す。
あの頃も、こんな風にして、よく空を見上げたな・・・。
ふしぎ星が危機に陥った時、シェイドはエクリプスと名乗って、星中を旅していた。
どこかに、この危機を救う方法があるんじゃないかと必死で駆けずり回っていた。
自国を離れ孤独にさいなまれる事もあった。
そんな時に、よく空を見上げた。
――空の、その透き通る青さに、愛しい少女の事を想って。
おひさまの国のプリンセス・レインとプリンセス・ファイン。
ふしぎ星を救う、唯一の希望ともいえる双子の姉妹。
はじめは、こんな幼い少女たちに星の命運がかけられている事に苛立ち、悔しい気持ちすら抱いた。
だが、懸命に自分の運命と戦っている姿を見ているうちに、心が動いた。
特に事あるごとに自分に突っかかってくる双子の姉、レインに。
気が強いくせに優しくて、それでいて危なっかしい。
青い髪をひるがえして笑う少女。
気付けば、いつの間にか目はいつも彼女の姿を探していた。
レインの姿を見る度に、心の中に暖かい灯がともるのを感じた。
たとえ、その口から出るのが、自分への憎まれ口だとしても。
それすらも愛おしかったから。
だから、1人っきりで旅をしていて寂しさに心震える時、空を見た。
空の青や海の青、自分をとりまく風景の中に、その透き通る色を求めて。
その青さに、レインの姿を探して。
――ただ、君を想っていた。
「シェイド?もう授業終わったわよ?」
ふいに響いた声で、シェイドは現実に引き戻される。
気付けば、その言葉通りに授業は終わり、教室はクラスメイトの声でざわめいていた。
視線を上に向ければ、そこには想い続けた、レインの顔。
「ごめん、ちょっと考え事してた」
少し慌てたように答えたシェイドに、レインは軽く微笑んだ。
「珍しいね、シェイドが授業中にそんな風に考え事するなんて」
「・・・ちょっと、空が、キレイだったもんでな」
その言葉に、窓の外を見上げたレインは柔らかな声を上げた。
「わぁ、本当だ〜!」
目を輝かせて、空を見るレインの横顔を見ながら、シェイドは、こっそりと微笑んだ。
星の危機も今や消え去り、シェイドとレインは同じ学園で時を過ごすようになっていた。
相変わらず色々なトラブルを巻き起こすレイン達に巻き込まれながら、それでも、シェイドは毎日が楽しかった。
あの頃、1人で旅していた時とは違う。
今、シェイドにはレインたちをはじめとした学園の仲間がいた。
寂しいなんて、思う暇もない。
見上げる空は、あの頃と同じように何処までも青い。
それでも、あの頃1人で見上げた空よりも、今日の空は一層まぶしい。
それはきっと、『君を想って』見る空じゃなく、『君と一緒に』見る空だから―――。
「・・・レイン」
「ん?なぁに?」
呼びかけられて、レインは優しく微笑んでシェイドを見た。
「・・・いや、何でもない」
「呼んどいたくせに、なぁに、それ〜。」
クスクスと笑いながらレインが抗議する。
それに苦笑で返しながら、シェイドは言いかけた言葉を胸の内で呟いた。
『ずっと、そばにいて、同じ空を見ていたい』
いつか、はっきりと声に出して、その言葉を伝えられる日が来るのを、祈って。
fin.
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久しぶりの「SS日付シリーズ」、9/20は『空の日』だそうです。
仕事場でネットを見ていて、それを知って
「これは1本書けるぞ」と思って家に帰るなり速攻で書き上げました。
日付シリーズは、blogでは全て「その当日」にupなので、締め切りが厳密なんですよ(汗)