「金木犀の香りがする」
ふいにレインが顔をあげて呟いた。
それは、ふしぎ星の危機を救うため、皆で旅をしていた頃のこと。
野宿をする事になり、レインとオレの2人だけで水をくみに行った時だった。
「ねぇ、シェイド。どこからか金木犀の香りがしない?」
もう1度、今度はオレの顔を見て、聞いてきた。
今まで気付かなかったが、確かに甘い香りが、どこからともなく漂ってくる。
「あぁ、そうだな」
花になんて、あまり興味のなかったオレは、そうとだけ返す。
だが、レインはそんなオレの反応を気にした様子も無く、キョロキョロと辺りを見回した。
「どこに咲いてるのかしら?」
やがて、レインは導かれるように香りのする方に歩き始める。
オレは慌てて追いかけた。
「お、おい、レイン!!」
さすがに、この森の中、1人で出歩かせるわけにはいかない。
少し行ったところで、ふいにレインが立ち止まった。
見ると、頭上に金木犀の花が咲いていた。
甘く、かぐわしい香り。
時々、思い出したように小さな花がほろりほろりと落ちてくる。
4枚の花びらを持つ、オレンジがかった黄色の花。
――その光景に、自分の国の、満天の星空を思い出した。
隣にいたレインが、ふわっと笑う。
「なんだか、星が降ってくるみたい。
ね?シェイド?」
・・・同じ事を考えてたんだ。
そう思うと何だか嬉しくなる。
「・・・ありがとうな、レイン」
思わず、そんな言葉が口から出た。
「え?」
レインが少し驚いた顔でこちらを見る。
「別に、私、お礼を言われるような事・・・」
「いや、十分してる」
それだけ言って、オレは口元だけあげて小さく笑ってみせる。
レインが微かに頬を赤らめた。
本当に、十分、感謝に値する。
頭上で強く香る金木犀。
オレは、レインに言われるまで、この香りにすら気付けないでいた。
すぐそこまで来ている、ふしぎ星の危機に苛立って、心の余裕を無くして・・・。
「私も、ありがとうって言わなきゃ・・・」
「え?」
「今まで色々迷惑かけたり、助けてもらったりしたもの」
オレは、思わず苦笑する。
「馬鹿だな、それこそ礼を言われるような事じゃない。
オレたちの星だ。
オレたちで守ろう」
レインが満面の笑みを浮かべる。
「うん、そうだね」
そっと、レインの手がオレの手に触れる。
「一緒に守ろう、私たちの星を・・・」
「あぁ」
オレは、重ねられた手を強く握り締める。
オレたちの上に、金木犀が降る。
見上げる空には、星が瞬き始める。
この風景を守りたいと思う。
そして、一緒にいる愛しい人を守り続けたい。
そう、強く思った。
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キンモクセイは管理人が個人的に好きな花の1つです。
この香りを嗅ぐと「秋が来たな」って感じられて嬉しくなるんですね。
街を歩いていて、どこからともなく香りがすると思わず探してしまいます。
キンモクセイに限らず、こういう風に季節を感じられる香り、というのは素敵ですよね。